はじめに:なぜ今、職場で発達障害が話題になるのか
近年、職場における「発達障害」の理解と対応が求められるようになっています。「何度言っても覚えない」「空気が読めない」「ミスが多い」そんな困りごとの背景には、実は見えづらい特性が潜んでいるかもしれません。本記事では、大人の発達障害の特徴と仕事への影響、そして現場が感じる限界と理解のバランスについて掘り下げていきます。
大人の発達障害の仕事における特徴と傾向
発達障害とは?大人の発達障害の定義と種類
発達障害とは、生まれつきの脳機能の特性により、行動・思考・対人関係に独自の傾向が見られる状態を指します。大人になってから気づくケースも増えており、就職や人間関係でつまずいて初めて診断を受けることもあります。主な種類は以下の3つです。
- ADHD(注意欠如・多動性障害)
- ASD(自閉スペクトラム症)
- LD(学習障害)
ADHD・ASD・LDの具体的な仕事上の症状・特性
障害 | 特徴 | 職場での例 |
---|---|---|
ADHD(注意欠如・多動症) | 注意が逸れやすい・衝動的 | 指示を途中で忘れる、予定を忘れる |
ASD(自閉スペクトラム症) | 柔軟な対応が苦手・空気が読めない | 報告・相談が遅れる、マイルールにこだわる |
LD(学習障害) | 読み書き・計算が苦手 | 書類作成・データ入力が困難 |
グレーゾーンを含む発達障害の特徴と仕事への影響
診断がつかない「グレーゾーン」の人も少なくありません。軽度でも、本人が困っていなくても、職場では違和感やズレとして現れることがあります。例)マイペースすぎて周囲と噛み合わない、仕事の優先順位がいつもおかしい…など。
「グレーゾーン」とは、発達障害の診断基準には当てはまらないものの、特性が強く現れていて日常生活や仕事に支障をきたしている状態を指します。
簡単に言うと…
- 診断は受けていない/診断名がつかないけど、明らかに特性がある人
- 周囲の人から「ちょっと変わってる」「空気が読めない」「仕事ができない」と思われがち
- 本人も「なんでうまくいかないんだろう」と悩んでいる場合が多い
グレーゾーンの人によく見られる特徴
特性例 | 職場での影響 |
---|---|
忘れっぽい | 指示を忘れる・納期を守れない |
空気が読めない | 場に合わない発言・報連相ができない |
マイペースすぎる | 周囲と協調できず、孤立しがち |
几帳面すぎる・こだわりが強い | 作業に時間がかかる・柔軟に対応できない |
人との距離感が独特 | トラブルになりやすい |
発達障害の大人に見られる「仕事ができない」「ミスばかり」の理由
業務指示が何度言っても分からない・覚えられない原因
これは「聞く力」「記憶する力」「手順を組み立てる力」が弱いために起こります。
視覚的な情報(メモ・写真・手順書)で補うと改善される場合もあります。
例:「この順番でやって」と口頭で3つ指示したら全部忘れる→やる順の写真やチェックリストがあるとできる。
ミスが多発する背景と職場で困る具体的なケース
- 細かいミスを何度も繰り返す
- 報告漏れが頻繁に起こる
- 1つの仕事に時間がかかり、他の業務に支障が出る
本人も「頑張ってるのに責められる」と感じ、職場も「何度言っても直らない」とストレスが溜まります。
仕事が続かない・転職が多い発達障害の傾向
自分の得意不得意が分からないまま働き始めて、苦手なことばかりを求められてしまうと離職につながりやすくなります。自己理解の不足、職場の理解不足のどちらも影響します。
現場が感じる「限界」と「理解」のバランスとは
周囲のスタッフが抱えるモヤモヤとストレス
- 「いつもフォロー役に回されるのが私ばかり」
- 「同じミスを何度も注意しても響かない」
- 「悪気がないのは分かってるけど、業務が回らない」
理解はしたい。でも現場は「人手」や「余裕」がない…これが現実です。
理解と配慮だけではうまくいかない場面も
合理的配慮は大切ですが、限られた人員や業務量の中では「共倒れ」になってしまうこともあります。
→「どこまで対応すべきか?」のライン引きが必要です。
「できないこと」ではなく「できること」を活かす視点へ
向いていない仕事を無理に任せるのではなく、「得意を伸ばす」「苦手を避ける」役割分担もひとつの工夫です。
例:細かい作業は苦手でも、人と話すのは好き → 接客・案内係
時間管理が苦手でも、集中力はある → 単独作業や裏方業務
大人の発達障害への理解と、業務遂行能力は別の話
職場で発達障害のある職員と関わる中で、「理解したい」という思いと、「業務が成り立たない」という現実の間で葛藤を抱えている方は少なくありません。現場で直面する悩みを言語化しながら、「どこまで配慮が必要なのか?」「適応が難しい場合はどうすべきか?」について整理していきます。
発達障害の特性は多様であり、配慮が必要なのは当然のことです。ただし、配慮をしても業務が成立しない、トラブルが繰り返されるという場合、「配慮」と「業務遂行」は分けて考える必要があります。
合理的配慮の範囲とは?どこまでサポートすればいいのか?
【法的な観点:合理的配慮とは?】
障害者差別解消法や、障害者雇用促進法などに基づき、企業や職場は「合理的な配慮」を求められますが、これは以下のような内容です。
- 本人の申告や特性に応じて、現実的な範囲でサポートをすること
- 例:説明をゆっくり丁寧に行う/マニュアルを用意する/口頭説明を文書で補う など
- 他の職員に過度な負担がかかるような対応は求められない
- 業務が回らなくなるほどの配慮は「合理的」とは言えない
【現場感覚に落とし込むと…】
発達障害の特性は多様であり、「全てに合わせる」ことは非現実的です。
ですので、現場での配慮は以下のように捉えるのがバランスが良いです。
1. 必要な支援と限界の線引きを明確にする
- 「何をすれば本人が理解できるか」を試すのは必要
- それでもミスが続く、業務に支障が出るなら「配慮だけでは困難」と記録を残す
2. 職務内容との適性を見極める
- 発達障害の方でも、特性に合った仕事ならパフォーマンスが高いことは多い
- 今のケアマネという職務がその方に「明らかに不適合」であるなら、職務の見直しも検討すべき
3. 組織としての責任分担を確認する
- あなた一人が抱える問題ではないので、上司や人事・労務・産業医などに正式に相談を
- 「合理的配慮の限界」を組織としてどう判断するかが重要です
【簡潔に言えば】配慮は必要です。ただし、それが業務の継続やチームの負担を著しく損なうなら、配慮の限界を組織として見極める必要があるというのが実際的な解釈です。
説明しても適応できないとき、職場はどう動くべきか
丁寧に説明しても業務理解が難しく、適応できない場合には、次のような段階的対応が求められます。
- 客観的に記録を残す(ミスやトラブル、指導内容と結果など)
- 本人との面談を通じて、特性と業務のミスマッチを明確にする
- 可能であれば専門機関(医師・支援機関)のサポートを得る
- 配置転換や業務の再分担など、実務上の対応を検討する
- 他の職員のストレスケアも忘れずに行う
適応を強いるのではなく、「どうすれば業務が円滑にまわるか」を組織として考えていく必要があります。
本人が職場とどう関わっていけばいいか
発達障害のあるご本人もまた、悩みながら職場に向き合っています。治療を受けているという状況であれば、職場との関係をよりよく築いていくために、以下の点が重要です。
- 自分の特性を言語化し、職場と共有する
- 「できること・できないこと」を明確にする
- 定期的な面談を通して、継続的にすり合わせる
- 自分を責めすぎず、医療や支援機関を積極的に活用する
「相談は甘えではなく、前向きな適応行動」だと捉え、職場とともにより良い働き方を探す姿勢が大切です。
まとめ:配慮は必要、でも限界もある
発達障害への理解と配慮は、現代の職場において重要なテーマです。ただし、それは「何でも受け入れること」ではありません。業務との適合性を見極め、必要な支援を行いつつも、限界があることを共有し、現実的な解決策を探ることが大切です。職場と本人がともに消耗しないよう、対話と仕組みづくりの両方が求められています。
支援と現実の間で、バランスを取る視点を
発達障害の職員と共に働くには、「理解」と「現実」のバランスをとる視点が欠かせません。
すべてを受け入れる必要はありませんが、「苦手には理由がある」と知ることで、職場全体の関係性が少しずつ変わっていくかもしれません。
悩んでいるのはあなただけじゃない
現場での戸惑いは、あなただけではありません。大切なのは、「どうしたらみんなが働きやすくなるか」を考えること。個人ではなく、チームで対応することが、無理のない支援と環境づくりへの第一歩です。